街・海・宇宙からのプラスチックごみマルチスケール観測システムの構築
工学部先進工学科海洋土木工学プログラム
加古真一郎
活動の背景・目的
世界中の海岸にはどの程度のプラスチックごみ(プラごみ)が漂着しているのであろうか?現状、この疑問への答えを正確に出すことはできない。なぜなら、プラごみ現存量を精度良く調査する手法が、如何なる時空間スケールにおいても確立されていないからである。故に多くの国や地方自治体は、漂着ごみ処理費用の正確な見積もりや、効果的な回収作業の立案に苦慮している。こうした実状から、科学的根拠に基づいたプラごみへの対応策が求められている。本研究は、市民科学、ドローンや人工衛星によるリモートセンシング、人工知能技術を組み合わせ、街や海岸・沿岸域に存在するプラごみをマルチスケールに監視する技術を開発することを試みている。我々の提案する市民参加型のこの科学的手法は、今まで知ることができなかった街中や海岸のプラごみ量(被覆面積や体積)を、種類毎に地図上で可視化し、その時間変動も明らかにする。この科学的知見は、廃棄プラスチックの動態を解明するための基礎資料となり、プラごみの効率的・効果的な抑制・削減に資する環境政策の立案へと波及する。また、市民の環境リテラシーの向上だけでなく、本問題の普及啓発活動にも寄与する。
活動の概要
本研究の目的は、1) 市民科学によって収集されたビッグデータと最新の深層学習技術を始めとした様々な機械学習技術を集約し、街中プラごみの定量化・可視化を可能にすること(高解像度小領域観測)、2) Kako et al. (2020)の手法を、場所や時間に依存しない普遍的な海岸漂着プラごみ定量化手法に発展させること(中解像度かつ中規模エリア観測)、3) 超小型衛星を用いた機動的観測により、高頻度オンデマンド海岸監視のための基礎技術を確立し、河川から沿岸域に至るプラごみの流れや漂着量を推定する技術を開発すること(低解像度広域監視)、4) 海岸プラごみの広域監視に対する既存の衛星データの有用性を検証すること、である。ここでの定量化は、街中プラごみにおいては種類毎の数や重量、海岸ではプラごみの被覆面積や体積、それから算出する汚染度や清潔度を示す。可視化は、漂着ごみ量の時間変化や、地図上へのごみ量の種類毎のプロットなど、時空間分布の提示を意味する。最終的には、上記1)〜4)から得られるマルチスケールデータを相補的に融合する技術を確立することで、高解像度広域監視を実現する。
期待される効果
本研究で提案する手法が確立されれば、携帯電話やドローンによる継続的な撮影で、今まで知ることができなかった街中や海岸のプラスチックごみ現存量が計測でき、またビッグデータとしてアーカイブ化が可能である。これまで、地方自治体など行政が海岸踏査や市街調査に割いてきた人的負荷や経済的負荷の大幅な削減が実現するだろう。また、人工衛星データを活用することで、広範囲・長期間のデータも入手可能となる。故に本研究の成果は、ごみ処理(費用)の計画立案、経済的なごみ回収作業の策定、重点的なごみ回収海岸の選定などの環境政策へ大きく寄与する。継続的なモニタリングは、これら環境政策の効果・検証に対しても利用できるため、行政ニーズへの本研究の貢献は極めて大きい。加えて、市民や地方自治体と協働した海岸観測を実施することで、市民の環境リテラシーの向上だけでなく、本問題の普及啓発活動にも寄与する。